相続登記は自分でできる?元法務局相談員の司法書士が解説
相続登記は専門知識が必要な難しい手続きです。
しかし、法務局(=登記所)の無料相談を利用するなどして、専門家に依頼することなく自分で相続登記を申請することも可能です。
本コラムでは、過去に3年間「法務局の登記相談員」として、一般の方の初めての相続登記をお手伝いしていた経験を持つ司法書士が、その経験をもとに、
- 法務局の登記相談を活用して自分で相続登記をする方法
- 相続登記を自分でできるのはどんな人か?
について解説していきます。
相続登記は自分でもできる?
相続登記には専門知識が必要
相続登記とは、相続によって不動産を取得した人が、その不動産を自分の名義に変更するための手続きです。
相続登記には、役所での戸籍の取り寄せ、遺産分割協議書の作成、法務局への登記申請など、多くの作業と専門知識が必要です。
相続登記は自分でもできる
相続登記をする場合の選択肢は、大きく分けて次の2つです。
- 司法書士に依頼する
- 自分で申請する
司法書士に依頼をすれば最低限の手間で確実に相続登記を済ませることができます。
相続登記を本人に代わって申請できる専門家は司法書士だけです。
(弁護士にも権限はありますが、専門性の高い分野なのでほとんど司法書士に任せてしまいます。)
一方で、ケースにもよりますが、ある程度時間をかければ自分で相続登記を申請することも可能です。
前述のとおり、私は3年間ほど法務局の登記相談員をしていましたが、その際も、まったく前提知識のない一般の方が、相談員のサポートを受けながら自分で準備を整えて相続登記を申請するところを何度も見てきました。
法務局の登記相談の活用方法
法務局の登記相談は利用すべき?
法務局の登記相談は、登記申請の手続きをサポートするために、登記の申請先である法務局に設置された無料の相談窓口です。
登記相談を利用せずに相続登記をすることもできますが、必要な知識を自分で一から調べて申請までたどり着くのはハードルが高く、そもそも何からすればよいかも分からないのが普通です。
その点、法務局の登記相談では、事前知識のない状態からでも、ある程度申請までの道筋をつけてもらうことができます。
そのため、法律手続きになじみのない一般の方が相続登記を自分で行う場合には、法務局の登記相談を利用することをおすすめします。
もちろん登記相談が必須というわけではありません。
まずは法務局のホームページなどを確認しながら準備を進めてみて、やはり難しそうだと感じた場合には登記相談の利用を検討する、というのもよいかもしれません。
登記相談はどこの法務局にすればよい?
相続登記の申請先である法務局は、不動産の所在地ごとに管轄が決まっています。
たとえば、東京には市区町村によって区分けされた23の法務局があり、中野区の不動産であれば「東京法務局中野出張所」に登記を申請します。
管轄の法務局が遠く直接行くことが難しい場合などのために、郵送によって登記を申請することも認められています。
申請と同様に、登記相談も管轄の法務局で行うのが原則です。
ただし、管轄の法務局が遠方の場合などは、近くの法務局で登記相談をして準備を整えた上で、登記申請は郵送で行う、ということも可能です。
登記相談を利用した相続登記の流れ
次に、法務局の相談を利用して、自分で相続登記を申請する際の一般的な流れを示します。
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登記相談の予約
法務局の登記相談は予約制になっていますので、原則として、前日までに電話で予約をします。
相談ができるのは、法務局が開いている平日の昼間のみです。予約が埋まっていて一週間以上先しか枠がないこともありますので、ある程度余裕をもって電話をしましょう。
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初回の登記相談
1回の相談時間は20分程度です。
必要書類の案内やひな形(遺産分割協議書や登記申請書)の配布、記載方法の形式的な説明を受けることができます。時間内に準備が完了すればそのまま登記を申請できますが、事前に自分で書類を揃えて相談に臨むのでない限り、初回でそこまで行きつくことは困難です。
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必要書類の収集・作成
相談時に案内された内容に従って、戸籍などの書類収集や、遺産分割協議書の作成・押印などを行います。
法務局の登記相談では、申請書類の書き方などの説明はありますが、書類自体を作成・手配してもらえるわけではありません。
申請書の作成や、役所での戸籍収集などは、相談後にすべて自分で行う必要があります。 -
2回目以降の登記相談
③が済んだら、再度予約をしたうえで2回目の登記相談をします。
準備中に出てきた不明点などを聞くことができるほか、初回相談の時間内に説明が終わらなかった場合には続きの説明を受けます。2回目の相談でも準備が完了しなければ、3回目以降、申請書類が揃うまで登記相談と書類の準備を繰り返します。
ケースにもよりますが、スムーズに行っても3~4回程度はかかると考えておきましょう。
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相続登記の申請
準備が全て整ったら登記を申請します。
登記相談はあくまで一般的な説明にとどまり、実際に作成した申請書の内容に間違いがないことを保証してくれるわけではありません。
申請後に不備があった場合には、書類を修正するよう連絡が来ます。内容に問題がなければ、登記申請から1~2週間程度で登記が完了します。
完了後に法務局で受け取る書類がありますが、返信用の封筒を用意すれば自宅に郵送してもらうこともできます。
自分でできるかどうかはケースによる
以上の流れに沿った手続きを、時間をかけて地道に行うことができるのであれば、相続登記を自分でできる可能性は高いと言えます。
とはいえ、一口に相続登記といっても遺産や相続人の状況などによってその内容は様々です。
私が法務局の登記相談員をしていた際も、何度相談に来ても登記申請までたどり着かないケースや、最初から司法書士(または弁護士)に相談した方がいいと思われるケースがありました。
そこで次に、これまで私が法務局の登記相談員として、また司法書士として、多数の相続登記に関わってきた経験をもとに
- 相続登記を自分でできるケース
- 相続登記を司法書士に依頼した方がいいケース
について、基準となる考え方を解説します。
相続登記を自分でできるのはどんな人?
クリアすべき3つのハードル
私のこれまでの経験上、相続登記を自分で行うことができるかどうかは、次の3つのハードルをクリアできるかによります。
- 時間の確保
- 戸籍の収集
- 遺産分割協議書の作成
これらをクリアできるのであれば、相続登記を自分でできる可能性は高いと言えます。
以下、それぞれについて詳しく説明していきます。
1.時間の確保
前述のとおり、法務局の登記相談を受けるためには、平日の昼間に(通常は複数回)法務局に行く必要があります。
また、登記相談を利用するかどうかに関わらず、書類の収集や作成は自分で行わなければならず、これらの作業時間がかかります。
相続登記を自分で行いたい人は、まず大前提として、これらのまとまった時間を確保する必要があります。
2.戸籍の収集
戸籍の収集は、相続手続きにおいて相続人をもれなく確認するために必要な手続きです。
相続登記に必要な戸籍は複数の役所に分散していることが多く、遠方の役所には郵送での請求をするなど、取得に手間がかかります。
この点、2024年3月から始まった「広域交付」により、最寄りの役所で戸籍をまとめて取得できるようになりました。
ただし、兄弟の戸籍は取得できない等の制限もあるので注意が必要です。
また、古い戸籍は記載内容を読み取るのも容易ではありません。
見落としがあるとその後の手続きに大きな影響を与える重要な作業ですので、もれがないよう慎重に確認しながら手続きを進める必要があります。
3.遺産分割協議書の作成
相続人の間で話し合った遺産分割の内容を書面にして、相続人全員が実印で押印します。
遺産分割協議書のひな形は法務局でもらうことができます。
ただし、具体的な事案に沿ったアドバイスをしてくれるわけではありませんので、遺産をどのように分けるのが最適かといったことは自分たちで判断する必要があります。
また、相続人が多い場合や相続関係が複雑な場合など、そもそも相続人全員が合意すること自体のハードルが高い場合もあります。
なお、遺言書がある場合や相続人が1人の場合、遺産分割は不要です。
司法書士に依頼した方がいいケース
上記の3つのハードルのうちどれか1つでも難しいと感じる人は、相続登記を司法書士に任せた方がよいでしょう。
司法書士に依頼をすれば、相続登記に必要な手続きをまとめて代行してもらえるからです。
仕事が忙しくて時間がない、法的な手続きが苦手、といった場合のほか、たとえば次のような場合の相続登記は司法書士に依頼することをおすすめします。
売却など次の予定が決まっている場合
たとえば不動産を売却することが決まっていて、相続登記を完了させるべき期限がある場合には、自分で登記を申請することは避けた方がよいでしょう。
思わぬ補正などによって期限までに相続登記が完了しなかった場合には、売買を延期せざるを得なくなり影響が大きいからです。
不動産が遠方にある場合
不動産が遠方にある、つまり管轄の法務局が遠方にある場合、登記申請自体は郵送で行うことも可能です。
しかし、万が一書類に不備があった場合には直接法務局に修正しに行くことが難しいので、このような場合には最初から司法書士に依頼した方が安心です。
疎遠な相続人がいる場合
相続人同士の関係性によっては、印鑑のもらい直しが難しかったり、法律家が関与していない書類に不信感を持たれたり、といったこともあり得ます。
話がこじれて手続きが止まってしまうと元も子もないので、このような場合にも最初から司法書士に任せてしまった方が安心でしょう。
なお、すでに相続人の間で争いが生じている場合は、司法書士は関与できないため、弁護士に相談する必要があります。
まとめ
以上、元法務局相談員である司法書士という立場から、登記相談の活用方法と、相続登記を自分でできるケース・司法書士に任せた方がいいケースを解説しました。
自分で相続登記をする場合は、法務局の登記相談を利用することで手続き的なハードルを下げることができます。
一方で、相続登記は、法的な判断を伴う専門的な手続きです。
司法書士に依頼することで、作業的な負担がなくなるだけでなく、不動産の調査や遺産分割協議へのアドバイスを通して、将来に不安を残さない確実な登記が可能です。
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