相続登記を見落としていた私道を10年後に登記したケース
ご相談者の状況
中野区在住のAさんは、10年前に父親を亡くした際、他の相続人Bさん・Cさんと話し合って、Aさんが自宅の土地・建物を相続することを合意し、その旨の相続登記をしました。
しかし、最近になって、自宅の土地の登記が「建物の敷地」部分と「私道」部分に分かれており、私道部分の相続登記が漏れている(登記名義が父親のままである)ことが判明しました。
相続から時間が経ってしまった私道部分の登記について相談できる専門家を探していたAさんは、当事務所のホームページの「不動産の相続登記」サービスをご覧になり、相談してみることにしました。
当事務所からのご提案
10年前の書類を確認させていただいたところ、相続人の間で作成した遺産分割協議書に私道の記載はなく、やはり当時は私道の存在自体を見落としていたことが分かりました。
幸い、他の相続人Bさん・Cさんは私道部分についてもAさんが相続することを認めてくれ、手続きにも協力してもらえるとのことでした。
ただ、当時の手続きに使用した戸籍などの必要書類は、コピーしか残っておらず、あらためて収集する必要がありました。
Aさんは仕事が忙しく、また、今度こそ間違いのない手続きをしたいとのことでしたので、当事務所で①私道部分のみについての遺産分割協議書を新たに作成すること、②戸籍などの必要書類を収集すること、を含めた相続登記の手続き一式をご提案し、ご依頼をいただきました。
結果
当事務所で作成した遺産分割協議書は、Aさんを通して相続人全員に渡してもらい、実印での押印をいただきました。
それと並行して、当事務所で戸籍などの書類を収集しましたが、登記に必要な「父親の住民票・戸籍の附票」が、役所の保存期間経過で破棄されていました。そこで、代わりの書類として父親名義の私道の権利証をAさんからお預かりして、法務局に提出しました。
結果として、ご依頼から1か月で登記手続きを無事完了させることができました。
補足知識
私道部分の見落とし
自宅の土地が「建物の敷地」部分と「私道」部分に分かれている場合、私道部分は「公衆用道路」として固定資産税が非課税になっている場合があります。
非課税の不動産は、固定資産税の納税通知書に記載されないため、納税通知書の記載だけを頼りに登記をすると私道部分を見落としてしまいます。
この点について、次のような調査を行うことで私道の存在を確認できることがあります。
- 土地の権利証を確認する
通常、敷地部分と私道部分の権利証はまとめて保管されていることが多いので、権利証を確認することで私道の存在が判明することがあります。その他、売買契約書など不動産を取得した当時の書類を確認することでも同様に発見できることがあります。 - 被相続人の名寄帳を取得する
名寄帳は、市区町村ごとに発行される所有不動産の一覧表です。もし私道があれば敷地部分の土地と一緒に記載がされます。ただし、私道が隣地との共有になっている場合など、場合によって記載が漏れてしまうこともありますので注意が必要です。
遺産の一部のみの遺産分割協議
遺産分割協議は、必ずしも一度にすべての遺産について行わなければならないわけではありません。相続人全員の合意があれば、先に遺産の一部のみを分割することも可能です。
逆に言うと、遺産分割協議において一部の遺産について言及がなければ、他の遺産について遺産分割協議が成立したとしても、言及のなかった遺産は未分割のままです。
今回のケースでは、遺産の一部が後から発見されたことにより、結果的に、①10年前に行った自宅(私道を除く)の分と、②今回行った私道の分の2回の遺産分割協議を行っています。
①の遺産分割協議は遺産の一部のみの遺産分割協議として有効に成立していますが、別途②の遺産分割協議をしなければ私道部分について登記をすることはできません。
相続発生後、時間が経ってからの相続登記
相続登記に期限はありませんので、10年前に発生した相続であっても登記が可能です。
なお、法改正により、2024年4月1日から相続登記に原則3年の期限が新設されます。
改正後は、期限の経過により罰則を受ける可能性がありますが、期限が経過したとしても登記自体ができなくなるわけではありません。
今回のケースでは比較的スムーズに登記ができましたが、場合によっては、相続人の協力が得られない・相続人が死亡しているなどの事情により手続きが複雑化することもありますので注意が必要です。
住民票や戸籍の附票が取得できない場合
相続登記には、原則として、被相続人の住民票または戸籍の附票の提出が必要です。
これらの書類を提出する理由は、そこに記載された被相続人の住所・氏名と、登記上の所有者の住所・氏名の一致を確認することで、別人による「なりすまし」の登記を防ぐためです。
しかし、これらの書類は、役所の保存期間経過により破棄されてしまい取得できないことがあります。
住民票・戸籍の附票(死亡や改製などにより閉鎖されたもの)の保存期間は、もともと5年間でしたが、2019年6月の法改正により150年間に延長されました。
今回のケースでは、被相続人の死亡から5年の経過によりこれらの書類がすでに破棄されていたため、代わりに被相続人の権利証(所有権の登記済証)を提出しました。
権利証は登記上の所有者本人だけが持っている書類ですので、これを提出することで、申請した登記が別人による「なりすまし」でないことを証明することができます。
もし、紛失などによって権利証も提出できない場合は、相続人全員が実印を押印した上申書(被相続人と登記上の所有者が同一人物に間違いない旨を記載したもの)などを別途提出することになります。