成年後見の申立前に確認すべき注意点
このページでは、後見人(成年後見人、保佐人、補助人)選任のため、裁判所に後見開始の申立てをする際に、事前に確認しておくべき注意点を分かりやすく解説していきます。
申立ては自由に取り下げることができない
いったん後見開始の申立てをすると、手続きの途中でその申立てを取り下げるためには、裁判所の許可が必要となります。
たとえば、自分が成年後見人になることを希望して申立てをした人が、成年後見人に選任される見込みがないことを知って申立てを取り下げようとする場合には、裁判所はその取り下げを許可しないと考えられます。
なぜなら、後見開始の要件を満たし、ご本人に制度利用が必要と認められるにもかかわらず、取り下げによって後見開始の審判をすることができないとすると、ご本人の利益を保護するという後見制度の趣旨に反することになるからです。
希望する人が後見人に選任されるとは限らない
成年後見の申立てを行う際には、後見人になってほしい人(親族など)を候補者として推薦することができます。
しかし、誰を後見人に選任するかは最終的に裁判所が判断しますので、裁判所が候補者を適任と認めなかった場合には、別の人(専門的な知見を有する弁護士や司法書士などの専門職)が後見人に選任されることもあります。
そして、この選任の判断については、不服申立てをすることができません。
親族の選任が認められないケース
親族の候補者が選任されないケースとしてよくあるのは、親族間に対立がある場合です。この場合、代わりに第三者である専門職が選任されるのが通常です。
申立て時の提出書類として、親族の意見書があります。この意見書の中に反対意見がある場合や、意見書の提出がなく裁判所から親族に照会をした結果、反対の意向を表明される場合には、親族間に対立があると評価されます。
その他、親族の候補者の適格性に問題があるケース、たとえば、申立て前から親族の候補者がご本人の財産を管理しているが、不自然に資金が流出している、といった場合には、裁判所の判断で別の人が選任されることがあり得ます。
親族の候補者と合わせて他の後見人や後見監督人が選任されるケース
ご本人に法律上または生活面での課題があるケースや、ご本人の財産管理が複雑で困難であるケースなど、親族の後見人にサポートが必要と考えられる場合には、親族の候補者が後見人に選任されたうえで、①さらにもう1人専門職の後見人が選任されて2人体制になることや、②専門職の後見監督人が選任されることがあります。
①のケースとして、たとえば、相続問題を解決するために専門職の後見人が選任された場合には、相続手続き完了後に専門職は後見人を辞任して、親族の単独後見に切り替わることもあります。
②のケースとして、親族の後見人が管理する預金などの流動資産が概ね1,000万円以上となる場合には、原則として専門職の後見監督人が選任されます。ただ、最近は、後見制度支援信託や後見制度支援預貯金の制度を利用し、後見人の管理財産を減らすことで、後見監督人が不要となるケースも増えているようです。
後見制度支援信託・後見制度支援預貯金とは、ご本人の財産を、日常的な支払いに必要な分を残して金融機関に信託・預入することで、後見人の財産管理の負担軽減などを図る制度です。
金融機関に信託・預入された財産の払戻しや解約には、裁判所が発行する指示書が必要になるため、後見人は自由に出入金ができません。
専門職の選任が認められないケース
最初から専門職を候補者として申立てをした場合(たとえば、専門職に申立ての手続きを依頼し、さらに候補者にもなってもらう場合など)には、その候補者がそのまま後見人に選任されることがほとんどです。
ただ、たとえば親族間に対立があると、申立人が立てた候補者について、他の親族が「申立人の意向に沿った人選である」として反対することがあり、このような場合には、裁判所の判断で別の専門職が選任されることも考えられます。
後見人の報酬が発生する
専門職が後見人や後見監督人に選任された場合には、報酬の負担が生じます。
報酬は、後見人や後見監督人が報酬付与の申立てをすることにより裁判所が金額を決定し、その金額がご本人の財産から支払われます。
親族の後見人は報酬を求めないケースも多いようですが、報酬付与の申立てをすれば、専門職と同様に報酬を受け取ることができます。
成年後見人等の報酬の目安
報酬の金額は、後見人の行った事務の内容に応じて裁判官が決定しますが、その目安は公表されています。
基本報酬
管理財産額 | 月額報酬の目安 |
---|---|
1,000万円以下 | 2万円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 3万円~4万円 |
5,000万円超 | 5万円~6万円 |
管理財産額 | 月額報酬の目安 |
---|---|
5,000万円以下 | 1万円~2万円 |
5,000万円超 | 2万5,000円~3万円 |
付加報酬
後見人等が通常の業務範囲を超えて行った身上監護や財産管理について、基本報酬以外に報酬が付加されることがあります。
たとえば、本人のために遺産分割や不動産の売却を行った場合などには、その分の報酬が基本報酬に加算して支払われます。
申立ての理由が解決しても後見は終了しない
いったん後見が開始すると、ご本人が病気などから回復して判断能力を取り戻すか、ご本人が死亡するまで、後見人の仕事は続きます。
申立てのきっかけとなった当初の目的(遺産分割や施設の入所など)が解決したとしても、後見が終了するわけではありませんので注意が必要です。
なお、後見人は裁判所の許可がなければ辞任することができず、もし許可が下りて辞任をしたとしても、その時点で後見の必要性がなくなっていない限り、別の後見人が選任されたうえで後見事務が引き継がれます。
後見人は裁判所に定期的に報告を行う必要がある
後見人は、原則として1年に1回決められた時期に、裁判所に対して後見事務の状況を報告することになっています。
この報告では、①報告期間内に行った後見事務の内容の報告書、②財産目録、③裁判所の求めに応じて収支の一覧表、といった書類を作成して裁判所に提出します。
適切な報告をするためには、金銭などの財産管理を明確に行い、後見人としての活動を詳細に記録しておく必要があります。
また、定期的な報告に加えて、たとえばご本人の居所が変わる、大きな財産変動がある、などご本人にとって大きな出来事がある場合には、その都度、裁判所への報告が求められます。
専門職でない人が後見人になる場合には、こういった報告書類の作成に慣れておらず負担に感じることも少なくありません。
後見人はご本人の財産を適切に管理する義務を負う
後見人は、ご本人の財産を適切に管理する義務を負っています。
後見人になった場合には、たとえ親族であっても、ご本人の財産を自身の財産と明確に分けて管理する必要があり、後見人やその他の親族に贈与・貸与するなど、ご本人の不利益となる処分をすることはできません。
ご本人の財産によって生活を支えられている配偶者や未成年の子に対しては、ご本人の扶養義務として支出が認められることもあります。
積極的な資産の運用(ご本人の財産が減少するリスクがある行為)や相続税対策(ご本人ではなく相続を受ける人のための行為)なども原則としてできません。
不適切な管理があった場合には、その程度によって、後見人を解任されるほか、損害賠償請求を受けるなど民事責任を問われたり、業務上横領などの罪で刑事責任を問われたりすることもあります。
まとめ
後見制度は、ご本人の利益を最優先に設計されています。
そのことによってご本人の権利が守られるというメリットは当然ありますが、一方で、ご家族からすると融通が利かない部分や使いづらいと感じる部分があるかもしれません。
後見の申立てを検討する際には、ここまで述べてきた注意点をしっかり確認したうえで、それでも制度利用をすべきかどうかを慎重に判断することをおすすめします。
もし少しでも不安な点があるようでしたら専門家の意見を聞いてみるのもよいでしょう。
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初回のご相談は無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。