会社設立登記で代表取締役の住所を非表示にする方法
2024年10月から、株式会社の登記における代表取締役の住所を非表示にできる制度が始まりました。
この手続きは、会社の設立登記と合わせて行うことも可能です。
本コラムでは、制度開始から一か月経過後の2024年11月時点で、設立登記時の住所非表示手続きを複数回行った司法書士が、実際の経験をもとにその方法を解説します。
代表取締役等の住所非表示措置とは?
2024年10月1日に開始した新制度
代表取締役等の住所非表示措置とは、株式会社の登記事項証明書(いわゆる会社登記簿謄本)において、代表取締役等の住所を非表示にできる新制度です。
代表取締役「等」とは、株式会社の代表者として住所が登記される、代表取締役・代表執行役・代表清算人のことです。
2024年10月1日から制度の運用が始まり、これまで登記事項として公開されていた代表取締役等の住所について、非表示を選択できるようになりました。
これにより、会社代表者のプライバシー保護をはかり、起業を促進することが期待されています。
手続きの詳細は法務省のウェブサイトにまとまっています。
法務局への申出が必要
代表取締役等の住所を非表示にするには、その旨を法務局に申し出る必要があります。
この申出はいつでも自由にできるわけではなく、次のいずれかの登記の申請と同時にする必要があります。
- 設立
- 管轄外への本店移転
- 代表取締役等の就任(重任を含む)
- 代表取締役等の住所移転等による変更
本コラムでは、特に、設立登記と同時に代表取締役の住所を非表示にする場合について解説していきます。
設立登記と同時に住所を非表示にするメリット
設立登記と同時に代表取締役の住所を非表示とすることには、主に次の2つのメリットがあります。
1.最初から非表示にできる
申出によって非表示になるのは、あくまで「申出以降の住所」であり、既に登記されている過去の住所をさかのぼって非表示にすることはできません。
したがって、例えば、住所変更を伴わない重任(=同じ代表取締役を選び直す)登記など、過去の登記で住所を確認できる場合は、住所非表示の申出をしてもあまり意味がありません。
これに対して、設立登記と同時に申出をする場合、過去の登記はありませんので、住所の非公開という目的を確実に達成することができます。
2.必要書類が手配しやすい
株式会社(上場会社を除く)における住所非表示の申出に必要な書類は次の①~③の3点です。
①住所証明書
②実質的支配者の本人特定事項を証する書面
③本店の実在性を証する書面
設立登記と同時にする申出は、これらの書類の手配が比較的容易です。
①住所証明書
住民票や印鑑証明書など、代表取締役の住所・氏名の記載がある公的証明書です。
設立登記には代表取締役の印鑑証明書を添付しますので、設立登記と同時にする住所非表示の申出のために別途手配する必要はありません。
②実質的支配者の本人特定事項を証する書面
実質的支配者(=株式の過半数を保有するなどして、会社の経営を実質的に支配している人)を確認する書類で、司法書士や公証人の作成したものが必要です。
設立登記では、その準備の過程で公証人に「実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書」という書類を作成してもらいます。
この書類が②に該当しますので、設立登記と同時にする住所非表示の申出のために別途手配する必要はありません。
③本店の実在性を証する書面
会社の本店が登記上の住所に実在することを確認した書面が必要になります。
前述のとおり、設立登記と同時にする住所非表示の申出においては、①と②は別途手配する必要がありませんので、準備すべき書類は③のみということになります。
そこで次に、この「本店の実在性を証する書面」について、実際に私が行った住所非表示の申出の経験と合わせて詳しく解説します。
(経験談)設立時の「本店の実在性を証する書面」とは?
住所非表示の申出に添付すべき「本店の実在性を証する書面」は、次のいずれかです。
- 配達証明書による場合
「会社を受取人として本店住所に送った郵便物の配達証明書等」 - 司法書士の証明書による場合
「登記申請を代理する司法書士等が本店の実在性を確認した結果を記載した書面」
設立登記と同時に住所非表示の申出をする場合は、会社成立前にこれらの書類を用意しなければならない点に注意を払う必要があります。
これらの書類がどのようなものかについて、設立登記において1および2でそれぞれ実際に手続きをした経験も踏まえて具体的に説明します。
1.配達証明書による場合
まず、設立する会社の商号と本店住所を宛先として記載した郵便物を、配達証明郵便で送ります。
これにより入手できる、
- 差出時に郵便局の窓口で交付される「郵便物等受領証」
- 配達後に送られてくる「郵便物等配達証明書」
の2点がセットで「本店の実在性を証する書面」になります。
郵便物等受領証の注意点
郵便物等受領証には、送付先(お届け先)として、設立する会社の商号と本店住所の両方が記載されている必要があります。
記載された商号または本店住所が登記記録と一致しない場合は、住所非表示が認められませんので注意が必要です。
なお、郵便物等受領証には次の2種類があります。
①郵便物等差出票との複写式で、差出人がお届け先を手書きするもの
②郵便局員が窓口で郵便物の宛先をスキャンして、その画像をお届け先として印刷するもの
①は、送付先の欄が「お届け先のお名前」となっていますが、そこに商号だけを記載した受領証は、本店住所の記載という要件を満たしません。
私は②によって実際の手続きをしましたが、最初に郵便局の窓口で交付された受領証はスキャンがずれて住所が途切れていましたので、その場で指摘して、商号と本店住所がはっきり写る形で再発行してもらいました。
配達証明書の注意点
まず、会社宛ての初めての郵便である場合、郵便物の配達自体に時間がかかる可能性があります。
郵便局が把握していない宛先の郵便物については、居住確認のハガキのやり取りなどが必要になることがあるからです。
また、郵便物の配達が完了してから、配達証明書が差出人に送付されるまでにも時間がかかります。
事前に郵便局に取り扱いを確認する、余裕のあるスケジュールを組む、など状況に応じた対応が必要です。
2.司法書士の証明書による場合
「本店の実在性を証する書面」のもう1つの選択肢は、「登記申請を代理する司法書士(または弁護士)が会社本店の実在性を確認した結果を記載した書面」です。
司法書士等が本店所在場所に実際に行くなどして実在性を確認し、その日時や具体的な確認方法などを記載して証明書とします。
例えば、設立登記の申請日に指定があり、配達証明書の手配が間に合わない場合には、司法書士が本店所在場所を現認する方法が有効です。
会社成立前に本店が実在するといえるのがどのような状況であるかについては、明確な基準が示されているわけではありません。
私が実際に手続きをしたケースは、別法人で既に事業を行っている経営者が同じ本店住所に新たに会社を設立する場合で、新会社の唯一の出資者であるその経営者に本店住所で面談し、事業の準備が整っていることなどを現認・聴取し、それらの経緯を記載して証明書としました。
まとめ
以上、会社設立登記と同時に代表取締役の住所を非表示にする方法について解説してきました。
手続きにあたっては、必要書類を確実に整えなければ住所の非表示が認められない可能性があります。
また、住所非表示はプライバシーの観点では非常に有用である一方、代表者の本人確認や融資・与信審査への影響など場合によってデメリットもあり得ると言われています。
不安な点があるようでしたら専門家に相談することをおすすめします。
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