海外で行方不明になった相続人を、外務省の所在調査で探したケース
ご相談者の状況
中野区在住のAさんとBさんは、亡くなった父親の預金を解約するため銀行に行きました。
銀行の窓口で、他に相続人がいないか尋ねられたお二人は、弟のCさんが10年ほど前にアメリカに移住し、それ以降音信不通であることを伝えました。
そうしたところ、銀行の担当者から、預金の解約手続きには相続人全員の関与が必要であり、Cさんがいないと手続きを進めることができないとの説明を受けました。
お二人がどのように手続きを進めればいいか困惑していたところ、銀行の担当者から相続の専門家として当事務所を紹介され、相談にお越しいただくことになりました。
当事務所からのご提案
当事務所の無料相談で、Aさん・Bさんから詳しくお話しを伺いましたが、Cさんは誰にも引っ越し先の住所や連絡先を伝えずに渡米したとのことで、Cさんの行方につながる情報はありませんでした。
そこで、まずは戸籍や住民票の収集などできる範囲で調査をすること、それでも不明な場合は、不在者財産管理人(裁判所が選任した管理人が行方不明者に代わって相続手続きをすることができる)や、失踪宣告(行方不明者を法律上死亡したものとみなす)といった制度を利用する選択肢があることを説明しました。
Aさん・Bさんは、専門的な手続きはすべて任せたいとのご意向でしたので、当事務所からは、これら一連の手続きを含め、書類の作成や預貯金の解約・払戻しまで相続手続きをまとめてお任せいただける「相続手続おまかせパック(遺産整理)」をご提案し、お二人にご依頼をいただきました。
結果
まず、Cさんの戸籍を取得しましたが、死亡や国籍を離脱した旨の記載はありませんでした。
また、戸籍の附票(住所の履歴を記載した証明書)には、10年前にアメリカに住所を移した旨の記録はありましたが、移転先の具体的な住所の記載はなく「アメリカ合衆国」とだけ記載されていました。
次に、Aさんを申請人として、外務省に「所在調査」の依頼をしました。
所在調査とは、海外で所在不明となった日本人について、外務省を通じて現地の日本領事館などの資料を調べてもらい、所在を調査する制度です。
すると、申請から2か月ほどして外務省から所在調査の回答書が届きました。
そこにはCさんと連絡が取れた旨とCさんの現在の(アメリカの)住所・電話番号が記載されていました。
その後、Cさんと電話・メールで連絡をすることができ、相続人間ですべての遺産を法定相続分どおり3分の1ずつ相続する旨の遺産分割協議が成立しました。
その結果に基づいて、当事務所が国際郵便で必要な押印書類などのやり取りをしたうえ、銀行での解約・払戻しを行いました。
なお、銀行から払い戻した預金は一旦当事務所の預り金口座に入金してもらい、Aさん・Bさんが負担していた被相続人の債務や遺産管理費用を精算したうえで、各相続人に送金(Cさんへは海外送金)しました。
補足知識
外務省の所在調査とは
外務省が行っている「所在調査」という制度があります。
これは、海外に住んでいる可能性が高く、かつ長期に渡って所在が不明となっている日本人の住所・連絡先などを、在外公館(現地の日本領事館など)にある資料をもとに調査する行政サービスです。
制度の概要は次のとおりです。
申請の要件
- 調査対象者は、日本国籍を有し、生存が見込まれる人物に限ります。
- 申請人は、三親等内の親族に限ります。
- 調査対象となる国(あるいは地域)を1か所だけ限定します(その根拠となる資料の提出が必要です)。
- 所在は分かるが単に連絡をしていない、または、連絡可能なすべての親族や知人に所在確認をしていない、といった事情が認められる場合は申請が認められません。
必要書類
- 申請書
調査対象者・申請人の情報や、調査の目的、所在不明と判断した理由などを具体的に記入します。 - 戸籍謄本
調査対象者と申請人の関係を証明します。 - 調査対象者の戸籍の附票
- 遺産相続等の場合で、申請人と調査対象者との関係が分かりにくいときは、その関係を表す相関図
- その他、住所の手がかりとなる資料
- 回答書を送ってもらうための返信用封筒・切手
※ 手数料は無料です。
※ 提出した書類の原本は戻ってきません。
申請後の流れ
- 外務省から依頼を受けた在外公館が、所持している資料を調べます。
- もし調査対象者の記録が見つかった場合、在外公館から電話または手紙で本人に連絡を取ります。
- 連絡が取れた場合、在外公館から本人に調査の目的や趣旨を伝えたうえ、所在の有無・住所・連絡先などを申請人に伝えていいかを確認します。
- 本人の同意が取れた場合には、所在調査の回答書にて、住所・電話番号などを申請人に伝えます。
海外在住の日本人には、本来、住所地について届け出の義務がありますので、もし調査対象者がその国にいるのであれば記録が見つかるはずです。
しかし、調査対象者が届け出の義務を怠っていることもあり得ますので、所在が判明しなかった旨の回答があったとしても、その結果をもって不在の証明になるわけではありません。
また、在外公館が調査対象者と連絡を取れた場合であっても、本人の同意が得られないときは、連絡先の回答はできません。
今回のケースとは別の事例で、調査対象者が死亡しており、その相続人と連絡が取れた旨と相続人の住所・電話番号が記載された回答書が来たこともあります。
相続人が海外に住んでいる日本人である場合
相続人が海外に住んでいる(日本に住民票の登録をしていない)日本人である場合、その相続人は日本での印鑑登録ができません。したがって、銀行での預金解約の手続きに必要な印鑑証明書を提出することができません。
この場合は、印鑑証明書に代えて、居住地の大使館や領事館、公証役場(notary public)で発行されるサイン(署名)証明書や宣誓供述書などを提出します。